転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


362 あっ、これナイショだった!



「お酒にするの? 横で見てていい?」

「ええ、いいわよ」

 アマンダさんが僕の作ったのを搾ってお酒にするって言ったから、僕はそれを見せてもらう事にしたんだ。

「どうやるの?」

「それはね、まずは大きめな器にふるい網と目の粗い布をかぶせて、その上から実と皮に混ざったままのお酒を入れるの。そうしたら布を通ってお酒だけが器に入るでしょ」

 アマンダさんはそう言うと、布の上から僕が作ったお酒を、ザァーって器の中に入れてったんだ。

「そして全部入れ終わったら布をこうすると」

 それでね、今度はかけてあった布の両端を持つと、中に入ってる実とか皮が落ちないように持ち上げてからその先をねじって、ぎゅうぎゅうと搾っていったんだよ。

「ほら、残ったお酒も器の中に落ちていくでしょ」

「ほんとだ。お酒だけちゃんと下に落ちちゃった」

 器の中を覗き込むとそこにあるのはちょっと濁ったお酒だけで、実とか皮は全然入ってなかったんだ。

「そっか、お酒はこうやって作るんだね」

「いいえ。今回は量が少なかったからこうやって搾ったけど、本当ならそれ専用の道具を使って搾るのよ。だからほら、この搾った方にも、少しだけお酒が残ってるでしょ」

 そう言って、絞った布を開いて見せてくれるアマンダさん。

 それを見てみると、その中のは言われた通りちょびっとだけ湿ってたんだよね。

「ホントだ。まだちょびっとぬれてるね」

「そうでしょ。でも、ちゃんとした道具で搾ると、最後の一滴までちゃんと搾り取る事ができるのよね」

 アマンダさんはそう言うとその布をもってごみ箱の方へ行き、そのまま……。

「ああっ!」

 捨てようとしたもんだから、僕は思わずおっきな声を出しちゃったんだ。

 だってさ、あれってきっとまだおいしいのが残ってるはずなんだもん。

「えっ!? なに、ルディーン君。どうしたの、変な声出して」

「アマンダさん、それ捨てちゃダメ」

「えっ、どうして? これは搾りかすだから、他に使い道なんてないでしょ?」

 でもね、アマンダさんはもう使えないものだって思ってるみたいなんだよ。

 だから僕、そんな事ないよって教えてあげる事にしたんだ。

「これ、最初にお酒にしたのと違って甘いのを全部アルコールにしたわけじゃないでしょ? だからちょびっとだけど実の方にもまだ甘いのが残ってるし、それにこのベニオウの実は皮にいっぱい魔力が入ってるって言ってたもん。だったら、それを使っておいしいのが作れるはずだよ」

「それはホントなの? ルディーン君」

 それを聞いたアマンダさんは、すっごくびっくりした顔になっちゃったんだよね。

 でもさ、このお酒を作る時に全部をアルコールにしないでって言ったのはアマンダさんなんだよ?

 それにさ、まだお酒が残ってるなら、これを生地に混ぜて作れば前の世界にあったお酒の入ったケーキみたいなのが作れると思うんだよね。

「うん。これを甘いパンケーキの生地に……」

 と、ここまで言ったところで、僕はあることを思い出したんだ。

 そう言えばパンケーキにドライフルーツとかを混ぜるとおいしいんだよって事、教えちゃダメってお母さんから言われてたんだっけ。

 だから僕、慌ててお口の前に両手を当ててお話しするのをやめたんだよ。

「どうしたの、ルディーン。急に口を押さえたりして」

「もしかして、さっきお酒を搾ったから、気化したアルコールで気分が悪くなったのかも?」

 でもね、僕が急にそんな事したもんだから、アマンダさんだけじゃなくってお母さんやルルモアさんまで心配して声を掛けてきたんだ。

「違うよ。僕、気持ち悪くなんてなってないもん」

「それならどうして急にあんなことしたの?」

 お母さんたちはこうやって心配してくれたけど、気持ち悪くなんて全然なってないでしょ?

 慌ててそんなんじゃないよって言ったら、今度はそれを聞いたお母さんがなんで? って聞いてきたんだよね。

 だから僕、お母さんのお耳の近くでパンケーキに生クリームをかけたりフルーツを混ぜたりするのを話しちゃダメって言ってのを思い出したんだってちっちゃな声で話したんだ。

 そしたらお母さん、ちょっとびっくりした顔した後で、

「あら、そういう事だったの。う〜んそうね。錬金術ギルドの人たちには悪いけど、この際だしもう話してしまってもいいと思うわよ」

 笑いながら、ここまで来たらもう話してもいいんじゃないの? って。

「いいの?」

「ええ。あの人たちも多分、全部話してしまうと後でルディーンが何かをやりたくなった時に困ると思って話さなかったのだと思うのよ。でも、アマンダさんたちにだったら話してもいいと思ってるんでしょ?」

「うん」

 アマンダさんにはいろんなスキルを教えてもらったもん。

 だから僕も、おいしいお菓子が作れるかもしれないんだったら教えてあげた方がいいよね。

「ルディーン君。お母さんとのお話はもういいの?」

「うん! あのね、教えてもいいって」

「ルディーン、それじゃ解らないわよ。アマンダさん、実はパンケーキの作り方を教えた時にルディーンが話さなかったことがあるんですよ」

 お母さんはね、村だとパンケーキの中にドライフルーツとかを入れて焼いてたりするんだよってアマンダさんに教えてあげたんだ。

「なるほど。確かに干した果物を入れれば香りや食感がよくなるでしょうね。あっ、という事はもしかして」

「うん。さっきのお酒をしぼったやつも、パンケーキの生地に入れたらきっとおいしくなると思うんだ」

 搾ったとの奴だけだと食べてもおいしくないだろうけど、お砂糖とかはちみつが入ってるパンケーキの生地に混ぜたらきっとおいしくなる僕は思うんだ。

 それにね、前の世界にもお酒が入ったお菓子があったもん。

 ベニオウの実で作ったお酒はとっても甘いにおいがするんだから、それが残ってる絞った後の奴を入れたらきっとすっごくいい香りのするお菓子ができると思うんだよね。

「あっでも、お酒が入ってるからパンケーキみたいに焼いたら僕やキャリーナ姉ちゃんは食べられないでしょ? だからさ、生地を型に入れてオーブンで焼いた方がいいんじゃないかなぁ?」

「ああ、じっくり火を入れて、アルコールを飛ばすのね」

 この後、僕とアマンダさんは搾ったやつだけじゃなくってちょびっとだけお酒を入れた方がいいんじゃないかとか、果物を入れるんだったらお砂糖よりはちみつの方がいいんじゃないの? とか言いながら、生地を作っていったんだ。


「うん、いい感じに焼きあがったわね」

 そうして出来上がった生地をオーブンに入れて、出来上がったのをみんなで試食。

 でもアマンダさんが意見を聞きたいからって、いろんな美味しいものを知ってるルルモアさんが最初に食べる事に。

「なるほど。搾った後の皮や実を入れたおかげで、少量しかお酒を入れなかったのにかなりしっかりとベニオウの実の香りがしているわ」

「ええ。これだけの香りを出そうと思ったら、きっと結構な量のベニオウ酒を入れないといけなかったでしょうね」

 僕の作ったお酒って、森の奥にあるベニオウの実じゃないと作れないからもしお菓子にいっぱい使おうとって思ったらとっても高くてお店には出せないそうなんだよ。

 でもね、これは捨てるつもりの奴を入れてるおかげで、もし冒険者ギルドでベニオウの実を採りに行けるようになったら売る事ができるかもしれないんだって

「ただ一つ問題なのは、この街に醸造が使える知り合いがいない事なのよね」

「確かにそれが問題よね。熟成は私が使えるからいいんだけど……」

 醸造スキルって、錬金術が使える料理人さんしか使えないでしょ?

 だからこのスキルを覚えてる人があんまりいないらしくって、いろんなお店に知り合いがいるルルモアさんでも醸造を使える人を知らないんだってさ。

「まぁ、しばらくの間はベニオウを採りに行ける人も見つからないだろうし、その時までに醸造が使える料理人がいないか、探してみる事にするわ」

「お願いしますね、ルルモアさん」


「ルディーン。これ、おいしいね」

「うん。甘いし、とってもいいにおいもするね」

 アマンダさんたちがそんなお話をしている間に、僕たちもベニオウのお菓子を美味しいおいしいって食べてたんだけど、

「おい、シーラ。いつになったら酒の試飲ができるんだ?」

「ハンス。後でちゃんと呑めるから、もう少しの間我慢して」

 お父さんはお菓子なんかよりお酒が飲みたかったみたいで、お母さんにこんなこと聞いたんだよ。

 でもそしたら、もうちょっと待ちなさいって怒られちゃった。

 でもね、そんなお父さんたちのお話をオーナーさんが聞いてたおかげで、僕たちがお菓子を食べてる間にお酒の試飲もしようって事になったんだ。


「ふむ。これは確かに、かなり上質な酒に仕上がっておりますな」

「ああ。普段はあまり高い酒を呑まないからどこがいいとまでは言えないが、かなり強い酒なのにとても呑みやすい」

 どうやら僕が作ったお酒は、お父さんたちも気に入ってくれたみたいんなんだよね。

 そしてお父さんたちがそんなお話をしてたもんだから、それに気付いたアマンダさんたちもお菓子は横に置いといて、一緒に飲み始めちゃった。

「さっき、まだ搾る前のを一口試食しましたけど、実や皮がなくなったからなのか、少しすっきりした味わいになってますね」

「う〜ん。お酒にしても、やはり実や皮に魔力が多く残ったままという事なんだと思うわ。でもこうしてみると、熟成をさせるのなら、搾る前の方がよさそうね」

 そしたら今度は二人して、このお酒の事を話し始めちゃったんだよね。

 でもね、その隙にお父さんやオーナさんに僕が作ったお酒をいっぱい飲まれちゃったもんだから、後でそれに気が付いてしょぼんとしちゃったんだよ。


 これで長かったお菓子屋さん編は終わりです。

 でも、ここから発生した話があと1話あるんですけどね。

 因みにですが、オーナーさんとお父さんに飲まれはしたものの、あくまで試飲という事なので一応ある程度残ってはいます。

 ただアマンダさんとしてはせっかくお菓子に向いているいいお酒が手に入ったという事で、いろいろと試してみたいと思っていたんですよね。

 なのに残りが少なくなってしまったという事で、がっかりしたと言う訳です。


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